北野の経験

たとえば、軽井沢に別荘を建築するときに、私たちのノウハウが生きてきます。インタビュー:常務執行役員 東京建築事業本部建築本部長 北川清人

北野建設は、長野に本拠地をかまえる建設会社です。冬場は厳しい気象条件となるこの地で、私たちは長年建設工事を行い、寒冷地工法のノウハウを磨き上げてきました。たとえば「軽井沢に別荘を建てたい」と思っている方は、そこでの快適な暮らしを支えてくれる建物に、しっかりとした配慮がなされているかがとても気になることでしょう。寒冷地での建設において気をつけなければいけないこと、そして北野建設ではどのような対応をしているのかをいくつかご紹介いたします。

北川清人(常務執行役員 東京建築事業本部建築本部長)

軽井沢で別荘を建設するには...

ーー冬の軽井沢は、どれくらい気候が厳しいのでしょうか。
北川  軽井沢は避暑地として知られていますが、標高が1000m前後の高地のため、冬は寒さが厳しい地域です。11月〜2月の冬期では最低気温が-15℃を下回ることもあります。また、7月末〜8月の間は、行政指導により工事の自粛期間が設けられています。この時期には避暑に来られる方がたくさんいらっしゃいますから、騒音を出さないようにするのと、工事車両による渋滞の発生を抑制するため、私たちも地元の建設会社として協力しています。5月の連休も同様に工事を自粛する場合がありますから、工事が可能な時期が限られてくるわけです。
ーー工事を行う期間の設定も重要になりますね。
北川  そうですね。私たちはそういった工事自粛期間も鑑みながら工期設定のご提案をしています。とは言え、竣工時期はお客様のご都合で決まりますから、寒さの厳しい冬期に工事を行わなければならなくなっています。冬の工事現場では、ちょっと水を撒いただけで、コンクリートや床の上ですぐ凍ってしまいますし、雪が降ると根雪となって春まで融けないこともあります。また、雪掻きをしても水分が残っていますから、そこもまた凍ってしまいます。そのままでは安全で正確な工事が行えませんから、凍らなせない予防や、凍ったときの対処策を施し、厳冬期でもしっかりとした建設工事を行わなければいけません。 そこで、私たちが長年培ってきた寒冷地での施工経験が生きてくるのです。
長野県軽井沢町と長野市内での年間の気温と降水量の比較。

基礎の根入れ深さに注意する

ーーでは、軽井沢に別荘を建設するとき、実際にはどのようなことに注意が必要なのでしょうか。
北川  軽井沢のような寒冷地では、凍上といって、寒気によって土中の水分が凍結して氷の層が発生し、それによってその土壌自体が隆起してしまう現象が起こります。ですから、まず建物の土台となる基礎工事では基礎部分の根入れ深さが重要となります。深さが足りないと、凍上で基礎が持ち上げられて建物が傾いたり移動してしまう可能性があるので、それを防ぐためにも凍結深度という地表面から地盤の凍結がおこらない深さ以上に基礎の根入れを行う必要があります。東京など一般的な気候の地域では地盤面から45センチが基本と考えられていますが、軽井沢の凍結深度は行政の建築規制で、設計上は70センチ以上となっています。私たちは詳細に凍結深度のデータを取り、それよりも深く根入れするように施工図を描き、現場に指示をしています。
凍結深度と根入れ深さの関係。

冬期のコンクリート打設

冬期のコンクリート打設時の採暖のようす。
ーー他にはどんなことに注意が必要ですか。
北川  厳冬期には、コンクリートを打設するときにも注意が必要です。木造の別荘でも、基礎部分にはコンクリートを使用しますし、最近は鉄筋コンクリート造の建物も増えてきています。
コンクリートは、セメント、水、砂、砂利の化学反応によって固まります。しかし、冬期になんの配慮もなく打設すると寒冷地ではコンクリートの中の水が凍結する現象が発生し十分に化学反応が進まず、定められた強度が出ない恐れがあります。そこで、凍結しないように建物全体を覆い、コンクリートが固まり始めるまで、その中でヒーターなどを使いずっと暖め続けます。
コンクリートの打設に適した時期は3月〜10月の間なので、お客様には工期設定の際にその期間で打設できるようにお勧めしています。先ほどもお話したとおり、冬期の打設にはコストがかかりますので、お客様には事前に工期やコストを十分にご説明し、ご要望の優先順位を決めていただかなければなりません。ご検討いただいた結果、冬期の打設になる場合は、品質に支障が出ないよう現場所長たちはそのノウハウを十分に発揮していきます。

鉄骨部材の凍結

ーー水を使うコンクリートを、冬期に工事することは大変なことなのですね。
北川  そうですね。他にも、最近では別荘でも鉄骨造の建物が増えていますが、鉄骨の建て方でも冬期は注意が必要です。鉄骨造は部材同士をボルトで止めて組み上げていきます。軽井沢は湿気があるため、冷やされた鉄骨部材の表面が結露し、さらにその水分がすぐに凍ってしまいます。接合部分が凍ってしまうとしっかりとボルトで組むことができませんから、接合する前にボルトで止める部分を十分に乾かすことで確実に鉄骨を組み上げるよう注意しています。

仕上げ材の接着には接着剤を使用する

ーー仕上げで気をつけなくてはいけないことは何でしょうか。
北川  コンクリートの躯体に、外壁の仕上げとして外側にタイルや石を貼り付けるデザインは多く見られますが、この仕上げ材の接着には、一般的にはモルタルを使用します。しかし、モルタルはコンクリート同様セメントと水が原料ですから、冬期に仕上げ工事を行うと、その水分が凍結してしまい、十分にタイルや石が接着されず、剥離の原因となることがあります。
軽井沢だけでなく長野本社で管轄している工事では、モルタルを、水分を含まず凍害のおそれのないエポキシ系の接着剤へと切り替え、さらにコンクリートの躯体を暖めながら行うことで、仕上げ材の剥離を防いでいます。
すが漏れが起こる原因。

屋根には雪をためない

ーー雪に関して注意すべきことはありますか。
北川  軽井沢は多雪地域でもありますから、屋根に積もる雪の処理も重要となります。屋根に残った雪のせいで水が溜まり、その水が板金の隙間からしみ込んで、すが漏れというトラブルの原因となります。軽井沢では、雪がたまらないように屋根仕上げには雪止めアングルを設けないでそのまま落としてしまうのがいちばんよいのです。しかし、それには人が通る玄関部分に雪が落ちないよう屋根形状を工夫しなければならず、設計上の対応が必要となりますから、お客様や設計者様としっかりとご相談をさせていただきます。
軽井沢でも2階建ての建物やマンションが主流ですが、高さ制限があり、雪を落とすために急勾配の屋根を架けることが難しくなってきています。そこで、屋根の板金の裏側に防水層を設けて、そこで雪が溜まってしまった際にも屋内への漏水を防ぐようなご提案もしています。

経験からの提案

ーー他にも、なにか気をつけることはありますか?
北川  軽井沢に別荘を建てるとなると、おそらく床暖房の導入をお考えになる方が多いかと思います。この床暖房でも注意が必要です。まず、床暖房は、床面の温度調整ですので、それだけで室内全体を急速に暖めることは難しいと思ってください。 ですから、同時に補助暖房としてガスストーブなどの導入や将来的に導入できるような配管設備を整えておくという選択肢をお客様にご提案することもあります。
また、軽井沢ではキツツキの被害が報告されています。キツツキが、板張りの外壁などに穴を開けてしまうのです。そのまま放置しておくとスズメバチがそこから入り込み、巣をつくったりして被害が拡大していきます。なかなか想像しがたいことですが、長年軽井沢で工事を行っているとなぜかキツツキに好かれる場所があって、そこではそういった被害が多く出ていることが分かります。そこで、別荘などを新築される方で、外装に木材をご希望される方には、穴を開けられないように内側に鋼板を張ることをご提案しています。そうすると、キツツキは突く行為すら止めてしまうのです。不思議ですね。

現在も更新し続けている「北野の経験」

ーー長年の経験からたくさんのノウハウが生かされているのですね。
北川  そうですね。今、述べたものはその一部ですが、こういった寒冷地の建設で注意すべきことやその対策や対処は、私たち社員はみんな、頭に叩き込んでいます。ですから、今のところ大きな失敗はありません。
今から10年ほど前に、若手社員の教育のため、これまでの失敗例から学んだ私たちの寒冷地での施工技術としてまとめ上げ、資料を作成しました。現在でも、竣工後の建物管理などから得た経験をさらに積み重ね、更新しています。